大阪地方裁判所 平成11年(ワ)13400号 判決 2000年9月27日
原告
戎美代子
ほか一名
被告
湊勝広
ほか三名
主文
一 被告らは、連帯して、原告戎美代子に対し、金一〇九三万七四一三円及びうち金一〇六三万六四五五円に対する平成一〇年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告上武紀子に対し、金九二〇万二八六三円及びうち金八九〇万一九〇五円に対する平成一〇年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
1 被告らは、連帯して、原告戎美代子に対し、金三九六〇万六二六三円及びうち金三九三〇万五三〇五円に対する平成一〇年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、連帯して、原告上武紀子に対し、金三二一一万二〇四〇円及びうち金三一八一万一〇八二円に対する平成一〇年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1(本件事故)
(一) 日時 平成一〇年九月二一日午後一時三分ころ
(二) 場所 大阪府和泉市岡町三一〇番地先路上(国道一七〇号線)
(三) 加害車両<1> 被告湊勝弘(以下「被告湊」という。)所有、運転の普通貨物自動車(和泉一一ぬ四六一〇)(以下「湊車両」という。)
<2> 被告株式会社田中富開発(以下「被告田中富開発」という。)所有、被告甲斐盛男(以下「被告甲斐」という。)運転で駐車禁止区域内の駐車禁止標識横の路上に駐車していた大型貨物自動車(和泉一一ゆ八七二)(以下「甲斐車両」という。)
(四) 態様 本件事故現場の東西道路を東から西に向かって走行していた湊車両が、前方路上に違法駐車していた甲斐車両に衝突し、その結果、即時、湊車両に同乗していた亡戎信雄(昭和一三年三月一九日生、当時六〇歳)が死亡したもの
2(責任)(甲四ないし一一)
(一) 被告湊の責任
被告湊は、湊車両を業務として運転していたものであるが、本件事故現場の片側二車線の道路の左側車線(走行車線)を東から西へ向かい進行させるに当たり、制限速度時速五〇キロメートルのところを、時速六〇ないし六五キロメートルで走行し、進路前方に違法に駐車していた甲斐車両を前方約五〇・一メートル地点に認めたのであるから、直ちに安全な速度に減速し、右側方及び右後方の安全を確認して右に進路を変更して右側車線(追越車線)に入るか、あるいは停止するなどして安全に甲斐車両を回避して走行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然前期速度で進行した過失により、前方約一九・三メートル地点に至ってようやくこのままでは衝突するかもしれないと気づき、急制動しようにも間に合わず、甲斐車両の右後部に湊車両の前部を衝突させて、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
(二) 被告池辺運送株式会社の責任
被告池辺運送株式会社は、被告湊の使用者であり、本件事故はその業務執行中に発生したものであるから、民法七一五条に基づく損害賠償責任がある。
(三) 被告甲斐の責任
被告甲斐は、本件事故現場道路は駐車禁止の規制がされており、駐車しては行けない場所であることを認識していたにもかかわらず甲斐車両を違法駐車していたものであり、右過失により湊車両が甲斐車両を避けきれず本件事故が発生したものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
(四) 被告田中富開発の責任
被告田中富開発は、甲斐車両の所有者であり、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。
3(相続)(甲二)
原告戎美代子(以下「原告美代子」という。)は亡信雄の妻であり、原告上武紀子(以下「原告紀子」という。)は亡信雄の子であり、亡信雄の死亡により原告らは各二分の一の割合で亡信雄を相続した。
4(損害填補)
(一) 湊車両の自賠責保険金 三〇〇〇万円(原告らそれぞれ一五〇〇万円)
(二) 甲斐車両の自賠責保険金 四〇六万円(原告らそれぞれ二〇三万円)
(三) 原告美代子に対し
遺族厚生年金 合計二六一万五四五〇円(平成一二年八月三〇日までに支給されたもの)
二 争点
1 亡信雄の損害
(一) 逸失利益 二七八三万三七六〇円
亡信雄は、本件事故当時満六〇歳の健康な男子であり、自宅で農業を営みながら長年会社勤務(収入は平成七年三九六万九五二三円、平成八年四〇八万八三四五円、平成九年四一五万八〇三三円)もしていたが、平成一〇年三月に定年退職したばかりで、労働能力と労働意欲が十二分にあり、職業安定所に通って職を探している最中であった。
よって、就労の蓋然性が高かったから、賃金センサスによる平均賃金の逸失利益が認められるべきである。
基礎収入 年四六四万一九〇〇円(平成九年賃金センサス男子労働者六〇歳の平均賃金)
生活費控除率 三〇パーセント
就労可能年数 九年間
中間利息 年一パーセント(ライプニッツ係数八・五六六)
464万1900円×(1-0.3)×8.566=2783万3760円
(二) 年金の逸失利益 二四一八万八四〇四円
亡信雄は、本件事故当時厚生年金合計年二三四万〇三〇〇円の給付を受けていた。
平均余命 一九年
中間利息 年一パーセント(ライプニッツ係数一七・二二六)
生活費控除率 四〇パーセント
243万0300円×(1-0.4)×17.226=2418万8404円
(三) 慰謝料 三〇〇〇万円
2 原告美代子の損害
(一) 葬儀費用等 四七九万四二二三円
(1) 交通費 一〇〇〇円
(2) 葬儀関連費 三五七万四〇五九円
(3) 法事費用 一一八万六五一四円
(4) 文書費用 三万二六五〇円
(二) 固有の慰謝料 八〇〇万円
(三) 弁護士費用 二五〇万円
3 原告紀子の損害
(一) 固有の慰謝料 六〇〇万円
(二) 弁護士費用 一八〇万円
4 確定遅延損害金
(一) 湊車両の自賠責保険金三〇〇〇万円が支払われたのは平成一一年一月二一日であり、本件事故日から年五パーセントの割合による確定遅延損害金は五〇万五四七九円となる。
(二) 甲斐車両の自賠責保険金四〇〇万円が支払われたのは平成一一年三月一五日から年五パーセントの割合による確定遅延損害金は九万六四三八円となる。
第三判断
一 争点1(亡信雄の損害)
1 逸失利益 一四九五万〇八〇〇円
証拠(二六の1、2、二九の1ないし3、三〇の1ないし3、三八の1ないし5、原告美代子本人)によれば、亡信雄は、本件事故当時満六〇歳の健康な男子であり、平成一〇年三月勤務していた会社を定年退職し、自宅で農業を営みながら右職活動をしていたこと、定年退職前の収入は平成七年三九六万九五二三円、平成八年四〇八万八三四五円、平成九年四一五万八〇三三円であったことが認められる。
右事実によれば、亡信雄は本件事故がなければ、再度職を得て収入を得ることができたことは認められるが、定年退職前の収入額からして、賃金センサスの六〇歳平均賃金を得る蓋然性まではこれを認めるには至らず、右資料等を参照すると、年三〇〇万円の収入を得る蓋然性を認めることができると言うべきである。
そこで、亡信雄の逸失利益を算定する。
基礎収入 年三〇〇万円
生活費控除率 四〇パーセント
就労可能年数 一一年(年五パーセントのライプニッツ係数八・三〇六)
将来の金利情勢を的確に認定することは困難であり、民事法定利率を考慮すると、中間利息の控除率は年五パーセントとするのが相当であり、この計算方法が特段不合理とまではいえないと考える。
300万円×(1-0.4)×8.306=1495万0800円
2 年金の逸失利益 一一三一万三〇一〇円
証拠(甲二七、二八の1、2)によれば、亡信雄は、本件事故当時老齢厚生年金等合計年二三四万〇三〇〇円の支給を受けていたことが認められる。
そこで、生活費控除率を六〇パーセント(年金の性格からして生活費控除率は右の程度とするのが相当である。)として、その逸失利益を算定すると、次のとおり一一三一万三〇一〇円となる。
243万0300円×(1-0.6)×12.085=1131万3010円
3 慰謝料 二〇〇〇万円
亡信雄の慰謝料は二〇〇〇万円とするのが相当である。
4 以上合計四六二六万三八一〇円(原告らそれぞれについて二三一三万一九〇五円)
二 争点2(原告美代子の損害)
1 葬儀費用等 一二〇万円
亡信雄の葬儀関係費用で本件事故と相当因果関係の認められる範囲は一二〇万円とするのが相当である。
2 固有の慰謝料 五〇〇万円
亡信雄の死亡についての原告美代子の固有の慰謝料は五〇〇万円とするのが相当である。
3 亡信雄の損害の相続分 二三一三万一九〇五円
4 以上合計二九三三万一九〇五円
三 争点3(原告紀子の損害)
1 固有の慰謝料 二〇〇万円
亡信雄の死亡についての原告紀子の固有の慰謝料は二〇〇万円とするのが相当である。
2 亡信雄の損害の相続分 二三一三万一九〇五円
3 以上合計二五一三万一九〇五円
四 損害填補
1 原告美代子につき 一九六四万五四五〇円
2 原告紀子につき 一七〇三万円
右を前期損害額から控除すると、
1 原告美代子 九六八万六四五五円
2 原告紀子 八一〇万一九〇五円
となる。
五 争点4(確定遅延損害金)
1 湊車両の自賠責保険金支払までの確定遅延損害金 五〇万五四七九円
2 甲斐車両の自賠責保険金支払までの確定遅延損害金 九万六四三八円
3 合計六〇万一九一七円(原告らそれぞれについて三〇万〇九五八円)
六 弁護士費用
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、次のとおりと認めるのが相当である。
1 原告美代子 九五万円
2 原告紀子 八〇万円
七 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)